研究・情報発信

はじめに

eスポーツ大会では、優秀な成績を収めた選手たちに賞金・賞品等(以下「賞金等」)が提供される場合があります。

ところが従来、eスポーツ大会の賞金等は、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」)第2条第3項の「景品類」に該当し、その最高額が10万円に制限される(懸賞制限告示第1項第2号及び第2項)のではないかという指摘がありました。

eスポーツ大会を興行として成功させるには、相応の価値がある賞金等を提供し、人気や実力のある選手に参加してもらうなどして大会を盛り上げることが重要となります。このため、賞金等の「景品類」該当性についてはさまざまな試行錯誤がされてきました。

そこで今回は、eスポーツ大会の賞金等が景表法上の「景品類」に該当するかどうか、また、これに関する実務的な対応について解説します。

【一覧:関真也法律事務所のeスポーツ法務解説】
#1:eスポーツ大会と賭博について


「景品類」とは?

定義

「景品類」とは、「顧客を誘引するための手段として、その方法・・・を問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引・・・に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、内閣総理大臣が指定するもの」(景表法第2条第3項)をいいます。

《要件:顧客誘引性》
「顧客を誘引するための手段として」提供するものであること

この要件は、「経済上の利益を提供した結果、実際に当該商品又は役務が購入されたかどうかに関係なく、客観的に誘引行為と認められる」かどうかによって判断されます[1]

《要件:取引付随性》
「自己の供給する商品又は役務の取引・・・に付随して」提供するものであること

この要件は、「①取引を条件とする場合のみならず、②取引に結びつきやすい場合」にも充足されます[2]

定義告示運用基準第4項第2号は、上記②に該当する場合を列挙しています[3]

後述するとおり、賞金等との関係では、このうち、「商品又は役務を購入することにより、経済上の利益の提供を受けることが可能又は容易になる」かどうかが重要です(同号イ)。

要件:「経済上の利益」(仕事の報酬)

たとえ顧客誘引性と取引付随性があったとしても、賞金等の提供が「仕事の報酬等」と認められる場合には、景品類の提供には当たりません(定義告示運用基準第5項第3号)。


eスポーツ大会の賞金等は「景品類」に該当するか
~基本的な考え方と実務対応~

前述した要件のうち、とりわけ「取引付随性」と「経済上の利益」(仕事の報酬等)に着目して、賞金等が「景品類」に該当するかどうかを解説します。

「取引付随性」について

基本的な考え方

「景品類」に該当するためには、その賞金等が、商品等の取引に付随して提供されることが必要です。

では、eスポーツ大会の会場等においてゲームソフト等の商品やサービスを販売等しないようにすれば、そもそも商品等の取引自体が存在しないため、賞金等もこれに付随して提供されるものではない(したがって「景品類」に該当しない)と考えることはできるでしょうか?

答えは「NO」です。

個別具体的な事情によりますが、会場等において商品等の取引をしない場合であっても、そのeスポーツ大会で提供される賞金等がなお「景品類」に該当すると判断される可能性はあります。

前述のとおり、商品の購入等の取引を条件として経済上の利益が提供される場合だけでなく、「商品又は役務を購入することにより、経済上の利益の提供を受けることが可能又は容易になる」場合でも、取引付随性は認められます。

eスポーツ大会で優秀な成績を収めて賞金等を獲得するためには、当然ながら、ゲームがうまくならなければなりません。ゲームがうまくなるためには、料金を払ってそのゲームを繰り返しプレイ(練習)する必要があります。また、効果の高いゲーム内アイテムを購入すれば、より入賞に近づくかもしれません。

つまり、ゲーム会社に料金を払ってゲームを購入・プレイするなどの取引をすることにより、賞金等を獲得することが容易になるわけです。このような関係にある場合、賞金等の提供には取引付随性があると判断され、「景品類」に該当する可能性があります[4]

実務対応

取引付随性がなく、「景品類」に該当しないかたちで、eスポーツ大会の賞金等を提供するには、どうしたらよいでしょうか?

一つには、その大会で使用されるゲームを販売等するゲーム会社が関与しないかたちで、eスポーツ大会を開催するという方法があります。

前述のとおり、取引付随性とは、「自己の供給する商品又は役務の取引・・・に付随して」経済上の利益を提供することを意味します。賞金等を提供するのが、そのゲームを供給する会社ではないのであれば、「自己の供給する」ゲームに関する取引に付随して賞金等を提供するわけではないため、取引付随性がないものと整理できる場合があります。

もう一つ、無料でプレイできるゲームでeスポーツ大会を開くという方法があります。この場合、(有償の)取引自体がないため、入賞者に賞金等を提供したとしても取引付随性がありません。ただ、課金することで勝ちやすくなるアイテムが提供されているゲームでは、そのアイテムを購入するという取引に付随して賞金等を提供していると判断される可能性があるため、注意が必要です。

「経済上の利益」(仕事の報酬等)について

とはいえ、ゲーム会社としては、自社の有料ゲームのプロモーションのために、賞金等を提供することを含めてeスポーツ大会にさまざまなかたちで関与したいと考えることは多いでしょう。

そこで、賞金等を「仕事の報酬」として提供することにより、「景品類」に該当しないと整理する方法が考えられます。これにより、10万円を超える賞金等を提供することができる可能性があります。

具体例として、eスポーツ大会の競技性及び興行性を向上させるために人気や実力のある選手に参加してもらうという「仕事の報酬」として、賞金等を提供するという方法があります[5]

もっとも、「配信・観戦のいずれも行われないなど、興行的性質がおよそ認められないイベント・大会において、参加者の実力・ゲームプレイの魅力に相応しない高額な賞金を提供して、専らゲームの販促活動のために賞金を提供するような場合には、個別判断によるものの、当該賞金提供が「仕事の報酬等」の提供であると認められない可能性がある」との指摘があります[6]

このため、eスポーツ大会に招待する選手が、「仕事の報酬」を受け取るに相応しいだけの人気、実力、実績等を備えた選手かどうか、また、提供する賞金等の価値がこれらに見合ったものであるかどうかなどについては、大会ごとに慎重に検討する必要があります。


おわりに

今回はeスポーツ大会における賞金等の提供と景表法の関係について紹介しました。

関真也法律事務所では、eスポーツのチーム、スポンサー、主催者、ゲーム会社、広告代理店、オンラインプラットフォームなどから、賭博罪、景品表示法、下請法・フリーランス法、労働法その他の各種法令への対応、契約書対応、コンプライアンス対応、知的財産その他の権利処理など多岐にわたる法律相談のほか、社内セミナー講師など幅広い業務をお受けしています。

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関真也法律事務所
弁護士 関  真也
弁護士 砂川 祐基


[1] 波光巖=鈴木恭蔵『実務解説 景品表示法〔第2版〕』13-14頁〔波光巖〕(青林書院, 2016)。

 

[2] 波光=鈴木・前掲注1)17-18頁。

[3] 景品類等の指定の告示の運用基準について(昭和52年事務局長通達第7号)。

[4]法令適用事前確認手続照会書」(20168月)及び消費者庁表示対策課長「法令適用事前確認手続回答通知書」(20169月)参照(いずれも202581日最終閲覧)。

[5]法令適用前事前確認手続照会書」(20198月)及び消費者庁表示対策課長「法令適用事前確認手続回答通知書」(20199月)参照(いずれも202581日最終閲覧)。

[6] 一般社団法人日本eスポーツ連合「eスポーツに関する法的課題への取組み状況のご報告」(2019912日)(202581日最終閲覧)。

この記事の著者について
日本国弁護士・ニューヨーク州弁護士
日本バーチャルリアリティ学会認定上級VR技術者

関 真也 Masaya Seki

エンタテインメント分野、ファッション分野、先端テクノロジー分野の知財法務に力を入れている弁護士です。漫画・アニメ・映画・ゲーム・音楽・キャラクターなどのコンテンツビジネス、タレント・YouTuber・インフルエンサーなどの芸能関係やアパレル企業・デザイナー・流通・モデルなどのファッション関係に加え、最近はXR(VR/AR/MR)、メタバース、VTuber、人工知能(AI)、NFT、eSports、デジタルファッションなどに力を入れ、各種法律業務に対応しておりますので、お気軽にお問い合わせ下さい。経済産業省「Web3.0 時代におけるクリエイターエコノミーの創出に係る研究会」委員、経済産業省・ファッション未来研究会「ファッションローWG」委員など官公庁の役職を務めルールメイキングに関わるほか、XRコンソーシアム監事、日本商標協会理事、日本知財学会コンテンツ・マネジメント分科会幹事、ファッションビジネス学会ファッションロー研究部会⻑などを務めており、これらの活動を通じ、これら業界の法制度や倫理的課題の解決に向けた研究・教育・政策提言も行っており、これら専門性の高い分野における法整備や業界動向などの最新情報に基づいた法的アドバイスを提供できることが強みです。

主な著書 「ビジネスのためのメタバース入門〜メタバース・リアル・オンラインの選択と法実務」(共編著、商事法務、2023年)、「XR・メタバースの知財法務」(中央経済社、2022年)、「ファッションロー」(勁草書房、2017年)など

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