はじめに
eスポーツ大会では、運営費用に充てるなどの目的で選手たちから参加料等を徴収したり、大会を盛り上げるために優秀な成績を収めた選手たちに賞金・商品等を提供したりする場合があります。こうした大会の運営資金等の設計・管理は、eスポーツ大会を持続的に運営していくために極めて重要です。
しかし、従来、選手たちから参加費を徴収して成績優秀者に商品等として提供することは、その成績により財産上の利益を得たり失ったりするものであり、「賭博」に該当するのではないかという問題が指摘され、これまで理論的・実務的な対応が懸命に行われてきました。
そこで今回は、eスポーツ大会と賭博の関係について解説します。
主な関連条文の整理
刑法第185条は、「賭博をした者」を処罰の対象としています(賭博罪)[1]。
また、刑法第186条第2項は、「賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者」を処罰の対象としています(賭博場開帳等図利罪)。ここにいう「賭博場」とは、「賭博を行う場所、賭博のための場所的設備を指す」と解釈されています[2]。また、「博徒」とは、「常習的ないし職業的に賭博を行う者を意味する」と解釈されています[3]。
本記事では、これらの罪における中核的な概念である「賭博」とは何かに焦点を絞り、解説します。
「賭博」とは
「賭博」とは、2人以上の者が、偶然の事情に係る勝敗によって、財物その他の財産上の利益(以下、財物等)の得喪を争うことをいうと解釈されています[4]。これに含まれる各概念の意味は以下のとおりです。
ここにいう「偶然」とは、「当事者において確実に予見できず、又は自由に支配し得ない状態をいい、主観的に不確実であることをもって足りる(大判大3・10・7録20-1816、大判大11・7・12集1-377)」とされています[5]。また、「当事者の能力が結果に影響を及ぼす場合でも、多少とも偶然性の影響下に立つときは、「偶然の事情」を認めるべきである」[6]とされています。
また、「財物の得喪を争うとは、勝者が財産を得て、敗者はこれを失うこと」を意味し、「当事者の一方が財物を失うことがない場合は、財物の得喪を争うものとはいえない」と解釈されています[7]。
eスポーツ大会の「賭博」該当性
eスポーツ大会は、勝敗があらかじめ決まっているものではなく、参加者である選手たちの能力その他の「偶然の事情」によって勝敗を争うものであるといえます。
したがって、eスポーツ大会に関して賭博罪が成立するか否かは、その勝敗によって、2人以上の者が「財物等の得喪を争う」ものかどうかによって決まる場合が多いといえます。
この観点から、eスポーツ大会は、(i)それに参加するための費用(参加費)の支払いがあるか否か、また、(ii)賞金の提供があるか否かという2つの軸により、4つのパターンに場合分けをすることができます。
以下、それぞれの場合について、eスポーツ大会に関して賭博罪が成立するかどうかを検討します。
①参加費の支払いなし+賞金の提供なしのeスポーツ大会
この場合、勝者となった参加者は、賞金という財物等を得ることはありません。また、敗者となった参加者は、参加費という財物等を失うことがありません。
したがって、この場合は、少なくとも、当事者の一方が財物等を失うことがないという点において「財物等の得喪を争う」ものではないため、賭博罪や賭博場開帳等図利罪は成立しないと考えられます。
②参加費の支払いなし+賞金の提供ありのeスポーツ大会
この場合も、前述①の場合と同様、少なくとも敗者となった参加者が参加費という財物等を失うことがないという点において「財物等の得喪を争う」ものではないため、賭博罪や賭博場開帳等図利罪は成立しないと考えられます。
③参加費の支払いあり+賞金の提供なしのeスポーツ大会
この場合、敗者となった参加者が参加費という財物等を失う可能性がありますが、勝者となった参加者が賞金という財物等を得ることはありません。
したがって、いずれの参加者も財物等を得ない以上、賭博罪や賭博場開帳等図利罪は成立しないと考えられます。
④参加費の支払いあり+賞金の提供ありのeスポーツ大会
この場合、勝者となった参加者は賞金という財物等を得る一方、敗者となった参加者は参加費という財物等を失うことになります。
したがって、このeスポーツ大会に関しては、「財物等の得喪を争う」ものとして、賭博罪や賭博場開帳等図利罪が成立する場合がありそうです。
(※以上の各パターンに関する検討は、個別具体的な事情を捨象した一般的な見地によるものです。実際のeスポーツ大会に関して賭博罪が成立するか否かについては、個別具体的な事情を踏まえた検討が必要となる点にご留意下さい。)
「賭博」に該当するリスクを低減させる方策
前述④の場合であっても賭博罪等が成立しないとする理論的・実務的な方策として、次のような解釈が提唱されています。
すなわち、「財物等の「得喪を争う」関係が認められるためには、参加者のうち、試合に負けた者が失った財物等が勝者に対する賞金の原資となり、実質的に移転する関係が必要となる」という理解を前提に、たとえば、「大会参加者から徴収される参加費がもっぱら大会の運営経費に充当され、賞金は大会主催者以外のスポンサーから直接提供される場合、参加者が失った参加費が賞金として移転するわけではないので、賭博罪は成立しない」とする見解があります[8]。
また、上記の見解内容を明確にするための実務上の方策として、たとえば次のような手段が提唱されています[9]。
- 参加料と賞金等を口座上分別管理する。
- 賞金等が第三者(スポンサー)から直接授与されるようにする。
なお、「スポンサーが賞金を出す場合であっても、大会開催者の親会社がスポンサーになるなど、実質的に参加料から賞金が出ている場合は賭博と判断される可能性も」あるという見解もあり[10]、賞金等の原資については一定の注意が必要となります。
おわりに
今回はeスポーツ大会と賭博の関係についてご紹介しました。
関真也法律事務所では、eスポーツのチーム、スポンサー、主催者、ゲーム会社、広告代理店、オンラインプラットフォームなどから、賭博罪、景品表示法、下請法・フリーランス法、労働法その他の各種法令への対応、契約書対応、コンプライアンス対応、知的財産その他の権利処理など多岐にわたる法律相談のほか、社内セミナー講師など幅広い業務をお受けしています。
eスポーツの法律問題に関するご相談は、当ウェブサイトのフォームよりお問い合わせ下さい。
[1] e-GOV法令検索「刑法」。常習賭博罪について刑法第186条第1項も参照。
[2] 前田雅英ほか編集代表『条解刑法〔第4版補訂版〕』552頁(弘文堂、 2023)。
[3] 前田ほか編代・前掲注2)553頁。
[4] 前田ほか編代・前掲注2)548頁等参照。
[5] 前田ほか編代・前掲注2)549頁。
[6] 前田ほか編代・前掲注2)549頁。
[7] 大塚仁=河上和雄=中山善房=吉田佑紀編『大コンメンタール刑法 第三版 第9巻〔第174条〜第192条〕』128頁〔中神正義=髙嶋智光〕(青林書院、 2013)。
[8] 経済産業省 第5回スポーツコンテンツ・ビジネスの拡大に向けた権利の在り方研究会「資料5 賭博罪をめぐる論点について」4頁(2022年3月22日)。
[9] 一般社団法人日本eスポーツ連合「eスポーツに関する法的課題への取組み状況のご報告」(2019年9月12日)〈2025年7月23日最終閲覧〉。
[10] 一般社団法人日本eスポーツ連合「法令をよく知ってeスポーツを楽しもう!かんたんeスポーツマニュアルver.1.0」7頁(2021年5月)。