研究・情報発信

はじめに

eスポーツプレイヤーは、SNSを含むインターネット上で、その名誉・プライバシー・肖像等が無断で公開されるなどの被害を受ける場合があります。

これらの権利を侵害するような情報(以下「侵害情報」といいます。)がインターネットで公開された場合における主な対応策として、①侵害情報の削除を求める方法のほか、②侵害情報の発信者を特定し、その者に対して損害賠償請求するなど民事上・刑事上の責任を追及する方法が考えられます。

今回は、eスポーツプレイヤーがこれらの被害を受けた場合の対応策について解説します。

【一覧:関真也法律事務所のeスポーツ法務解説】
#1:eスポーツ大会と賭博について
#2:eスポーツ大会の賞金等は景品表示法上の「景品類」に該当するか
#3:eスポーツ大会は風営法の規制を受けるか
#4:プロeスポーツ選手の労働者性と法的問題点~未成年者がプロ選手になるケースを例に~
#5:eスポーツ選手の移籍制限と独占禁止法の考え方
#6:チート行為と刑法犯罪について
#7:海外eスポーツプレイヤーの在留資格に関する法的問題点
#8:eスポーツ大会の広告物にゲームキャラクターを掲載することができるか?
#9:eスポーツにおけるゲームプレイは著作権法上の「実演」にあたるか?
#10:eスポーツプレイヤーの肖像権・パブリシティ権の保護とチーム・大会主催者等の注意点


侵害情報の削除を求める措置

裁判上の手続

インターネット上の情報がプライバシー、名誉、著作権その他の権利を侵害するものである場合、被害者には、人格権又は著作権法その他の法令に基づき、その侵害情報の提供の差止め(いわゆる削除)を請求する権利があります。

このため、被害者としては、侵害情報の削除等という目的を実現するため、投稿者又はSNS運営事業者等のサイト管理者に対して以下の裁判を起こすという選択肢をもっています。

  • 仮処分:侵害情報の削除を求める仮処分命令申立てをする。
  • 訴 訟:侵害情報の削除のほか、損害賠償請求その他民事上の請求をする訴訟を提起する。

仮処分命令申立ては、その手続の中で損害賠償請求をすることはできませんが(※)、通常の訴訟よりも迅速な手続によって削除に至る可能性がある手続です。侵害情報が長くインターネット上で公開され、多くの人々の目に触れたり拡散されたりすると、被害が大きくなるだけでなく全ての侵害情報を完全に削除することも困難となります。このため、仮処分命令申立てという手続も実務上よく用いられています。

※ 仮処分命令申立事件の中で裁判所が権利侵害を認めた場合には、その後の投稿者等との交渉や訴訟において損害賠償を求めやすくなるケースもあります。

もっとも、これらの裁判による手続には、以下のような制約もあります。

  • そもそも投稿者が誰か分からない場合、後述の発信者情報開示手続を経る必要があるなど、投稿者に対する裁判手続を開始するのに時間がかかる。
  • 投稿者ではなく、SNS運営事業者等のサイト管理者がその侵害情報を流通させている主体(権利侵害行為者)であると認められるケースは限られる。

裁判外の措置

そこで、実務上は、裁判を始める前に、SNS運営事業者等のサイト管理者に対して削除を依頼するという措置を講じるのが一般的です。

たとえば、サイト管理者の中には、そのサイト上に侵害情報が掲載されている場合に被害者が通報するためのフォームやメールアドレス、さらに通報に必要な情報の項目・資料等を公表している場合があります。

また、「情報流通プラットフォーム対処法 関連情報サイト」で公開されている「侵害情報の通知書兼送信防止措置依頼書」に必要事項を記入し、サイト管理者に提出するという方法もあります。

サイト管理者は、これらの削除依頼を受け、自身が管理するサイト上で侵害情報が流通していることを知ったにもかかわらず削除せずに放置すると、投稿者と同様に侵害行為をしているとの法的評価を受け、サイト管理者自身が損害賠償請求等の対象となる場合があることから、サイト管理者が削除に応じる可能性があるのです。

加えて、削除依頼を受けたサイト管理者が投稿者に意見を聴いても一定期間内に反論がない場合、サイト管理者は削除をしても投稿者に対して責任を負わないという仕組みになっています。

このため、適切な削除依頼を提出すれば、裁判手続を経ずともスピーディーな削除が実現される可能性があります。

したがって、被害者としては、サイト運営者がそのサイト上で侵害情報が掲載されていることを確実に知ったといえる状態にするために、法的な観点から具体的かつ明確に整理して、削除依頼のフォームや電子メール、書類等に必要事項を記載する必要があります。

また、SNSその他サイトごとに、講じることができる措置や求められる情報・資料等の内容が異なる場合があるため、それぞれの特徴に応じた対応が必要となります。


発信者情報開示

発信者情報開示とは、侵害情報を流通させた発信者に対して責任追及をするために、発信者が「どこの」「誰なのか」を特定するための手続です。開示の対象は、発信者のIPアドレス、タイムスタンプ、氏名、住所、電話番号等が一般的です。

令和410月に発信者情報開示命令申立てという制度が導入される前は、被害者が発信者情報の開示を受けるには、まず、アクセスプロバイダ[1]を特定するためにコンテンツプロバイダ[2]に仮処分の申立てをし、そこで開示されたIPアドレス等をもとに、さらにアクセスプロバイダに対して発信者情報開示請求訴訟を提起する必要がありました。

発信者情報開示命令申立ては、仮処分申立てよりも緩やかな要件でコンテンツプロバイダにアクセスプロバイダの名称等を提供するよう求めることができるようになり、コンテンツプロバイダに対する仮処分命令を待たずに、アクセスプロバイダに対して開示命令を申し立てることができます。

もっとも、発信者情報開示命令申立ては、削除に関する申立てを併合して審理することができないため、削除と開示請求を1つの手続で審理する場合には仮処分命令申立てをする必要があるとされています。したがって、仮処分命令申立てをするか、それとも発信者情報開示命令申立てをするかは、目的に合わせて慎重に検討する必要があります。


損害賠償請求 / 刑事訴追

発信者情報開示の手続で発信者が特定できた場合[3]には、当該発信者を被告とする不法行為(民法第709条、710条)に基づく損害賠償(慰謝料)請求を提起することになります。また、発信者の投稿が名誉毀損罪(刑法第230条第1項)、侮辱罪(刑法第231条)、信用毀損罪・業務妨害罪(刑法第233条)等がある場合には、刑事告訴の申立てをすることも検討することができます。


法的措置検討のための準備

この記事でご説明した法的措置を実行するためには、侵害情報を特定することができる情報を確保し、証拠化することが必要不可欠です。

そこで、削除や発信者情報開示の手続を検討される場合には、以下の各情報を写真撮影、スクリーンショット、動画キャプチャ、PDF化等の方法で保存しておくことをお勧めいたします。

  • 侵害情報の内容(侵害情報が掲載されたウェブページの画面)
  • 侵害情報が表示されているウェブページのURL
    ※投稿日時と撮影日時が当該URLと一緒に表示されるようにPDFコピーの設定をするなどして保存すること
  • 上記URLで表示されるウェブページ内で該当箇所を特定する情報(レス番号等)
  • 侵害情報を投稿したアカウントの情報(ユーザ名、ID、プロフィール画像、自己紹介等を含むアカウントページの画像)

おわりに

今回は、eスポーツプレイヤーがSNSやインターネット上で被害を被った場合の対応策について、一般的な見地から解説しました。

関真也法律事務所では、eスポーツプレイヤーを含む選手、タレント、アーティスト、YouTuber、VTuber等が誹謗中傷等をされた場合の法的措置について相談をお受けするほか、チーム・運営企業、スポンサー、eスポーツ大会主催者、ゲーム会社、広告代理店、オンラインプラットフォーム等から、賭博罪、景品表示法、風営法、独禁法その他の各種法令への対応、契約書対応、大会運営規約対応、コンプライアンス対応、知的財産その他の権利処理など多岐にわたる法律相談や社内セミナー講師など幅広い業務をお受けしています。

インターネット上の誹謗中傷・著作権侵害等に対する発信者情報開示や損害賠償請求等についてご相談のある方は、当ウェブサイトのフォームよりお問い合わせ下さい

関真也法律事務所
弁護士 関  真也
弁護士 砂川 祐基


[1] インターネット通信に接続するサービスを提供している事業者のことです。

[2] インターネットにおいてコンテンツを提供しているサービスの事業者のことです。たとえば、SNS、ブログや掲示板などのサービスを提供する会社がこれに該当します。

[3] 開示された情報が氏名・住所以外の情報(電話番号等)である場合には、発信者を氏名・住所により特定して法的措置を実行するために別途手続が必要となる場合があります。

 

この記事の著者について
日本国弁護士・ニューヨーク州弁護士
日本バーチャルリアリティ学会認定上級VR技術者

関 真也 Masaya Seki

エンタテインメント分野、ファッション分野、先端テクノロジー分野の知財法務に力を入れている弁護士です。漫画・アニメ・映画・ゲーム・音楽・キャラクターなどのコンテンツビジネス、タレント・YouTuber・インフルエンサーなどの芸能関係やアパレル企業・デザイナー・流通・モデルなどのファッション関係に加え、最近はXR(VR/AR/MR)、メタバース、VTuber、人工知能(AI)、NFT、eSports、デジタルファッションなどに力を入れ、各種法律業務に対応しておりますので、お気軽にお問い合わせ下さい。経済産業省「Web3.0 時代におけるクリエイターエコノミーの創出に係る研究会」委員、経済産業省・ファッション未来研究会「ファッションローWG」委員など官公庁の役職を務めルールメイキングに関わるほか、XRコンソーシアム監事、日本商標協会理事、日本知財学会コンテンツ・マネジメント分科会幹事、ファッションビジネス学会ファッションロー研究部会⻑などを務めており、これらの活動を通じ、これら業界の法制度や倫理的課題の解決に向けた研究・教育・政策提言も行っており、これら専門性の高い分野における法整備や業界動向などの最新情報に基づいた法的アドバイスを提供できることが強みです。

主な著書 「ビジネスのためのメタバース入門〜メタバース・リアル・オンラインの選択と法実務」(共編著、商事法務、2023年)、「XR・メタバースの知財法務」(中央経済社、2022年)、「ファッションロー」(勁草書房、2017年)など

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