はじめに
eスポーツ選手は、チームやその運営企業と契約をし、プロとして活動することがあります。このとき、プロeスポーツ選手が「労働者」に該当する場合には、労働法上のさまざまな問題が生じます。
そこで、今回は、プロeスポーツ選手と労働法の問題点について解説します。
【一覧:関真也法律事務所のeスポーツ法務解説】
#1:eスポーツ大会と賭博について
#2:eスポーツ大会の賞金等は景品表示法上の「景品類」に該当するか
#3:eスポーツ大会は風営法の規制を受けるか
「労働者」とは
労働基準法上、「労働者」とは、「職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義されています(同法第9条)[1]。
そして、「労働者」に該当するか否かは、①労働が他人の指揮監督下において行われるかどうか、すなわち、他人に従属して労務を提供しているかどうか(指揮監督下の労働)、②報酬が「指揮監督下における労働」の対価として支払われているかどうか(報酬の労務対償性)という2つの基準により判断されます(この2つの基準を総称して「使用従属性」といいます。)[2]。
使用従属性を含め、労働者性を判断する具体的な基準・要素は以下のとおりです[3]。
「指揮監督下の労働」に関する判断基準
報酬の労務対償性に関する判断基準
「労働者性」の判断を補強する要素
|
なお、この判断基準については現在見直しが検討されており、議論の進展に注意する必要があります[4]。
プロeスポーツ選手の「労働者」性
プロeスポーツ選手が「労働者」に当たるかどうかについても、個別の事案ごとに、前述と同様の基準で判断されます。
たとえば、出場するeスポーツ大会を自由に選び、練習時間や内容、使用する機材等も自ら決定・手配するようなeスポーツ選手は、所属チーム等の指揮監督下で活動しているわけではないため、「労働者」には該当しにくいといえるでしょう。また、得られる報酬が高額であるほど、労務提供の報酬を得る「労働者」というよりは、自らのリスクに基づき独立の「事業者」として活動していると評価されやすくなります。
他方で、所属チーム等からこれらの事項について指示を受け、活動時間に応じた報酬を受け取っている場合には、「労働者」であると判断されやすくなると考えられます。
eスポーツ選手が「労働者」である場合の注意点
~未成年者のケースを例に~
現在、eスポーツ選手の年齢自体を制限する法律は見当たりません。したがって、成年者のみならず、18歳未満の未成年者も、プロeスポーツ選手になることは法律上可能であると考えられます。
この点、一般社団法人日本eスポーツ協会(JeSU)は、eスポーツ選手のプロライセンスについて、「15歳以上、義務教育課程を修了している人を対象」とする「ジャパン・eスポーツ・プロライセンス」と、「15歳以下で、プロライセンス発行に値する人を対象」とする「ジャパン・eスポーツ・ジュニアライセンス」を発行しています[5]。
未成年者のプロeスポーツ選手が「労働者」に当たる場合、当該未成年者と契約を締結するeスポーツチームやその運営企業は、労働時間に関する規定(労働基準法32条)、15歳未満の労働者の使用を原則禁止する規定(同法第56条)、18歳未満の労働者の深夜労働の制限規定(同法第61条)等を遵守しなければなりません。
そうなると、eスポーツチームやその運営企業は、たとえば、休日に行われるeスポーツ大会への参加を労働時間とするのか、練習として行うゲームのプレイ時間を労働時間としてどのように計算するのか、15歳未満の選手の活動範囲を限定するか又は未成年者と成年者から構成されるeスポーツチームの活動内容をどのように決定するか、夜間に行われるスクリム(練習試合)への参加が深夜労働にならないかなど、労働法上の問題を検討することが必要となります。
おわりに
eスポーツチームやその運営企業は、契約するeスポーツ選手が「労働者」と当たる場合、契約内容を含め、労働関係法令を遵守するために検討すべき事項が生じます。
関真也法律事務所では、eスポーツチーム・運営企業と選手との間の契約その他労働法に関する問題についてご相談をお受けしているほか、eスポーツのチーム・運営企業、スポンサー、eスポーツ大会主催者、ゲーム会社、広告代理店、オンラインプラットフォーム等から、賭博罪、景品表示法、下請法・フリーランス法、労働法その他の各種法令への対応、契約書対応、コンプライアンス対応、知的財産その他の権利処理など多岐にわたる法律相談のほか、社内セミナー講師など幅広い業務をお受けしています。
eスポーツの法律問題に関するご相談は、当ウェブサイトのフォームよりお問い合わせ下さい。
[1] 労働契約法や労働者災害補償保険法における「労働者」も、労働基準法上の「労働者」と基本的に同一の概念であるとされています(労働契約法第2条第1項、第二東京弁護士会労働問題検討委員会編著『労働事件ハンドブック 改定版』76頁〔亀田康次=澤田雄高=加地弘=岩渕恵理=平井孝典〕(労働開発研究会、 2023)、最一小判平成8年11月28日労判714号14頁等参照)。
[2] 厚生労働省ウェブサイト「労働基準法における「労働者」とは」(2025年8月24日最終閲覧)。
[3] 労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」(昭和60年12月19日)。使用従属性は、この判断基準のもと、個別の事案ごとに総合的に判断されるものであり、請負契約、委任契約等の契約の名称等によって決まるわけではありません。大阪地判令和2年9月4日労判1251号89頁、知財高判平成29年9月13日裁判所ウェブサイト(平成29年(ネ)第10036号)も参照。
[4] 厚生労働省「第1回労働基準法における「労働者」に関する研究会 議事録」〔岸本武史発言〕(2025年5月2日)参照(2025年8月24日最終閲覧)。