研究・情報発信

令和7(2025)年2月10日、特許庁で、産業構造審議会知的財産分科会第17回意匠制度小委員会が開催され、「仮想空間におけるデザインに関する意匠制度の在り方」などについて議論が交わされました。

仮想空間において利用されるアバター、衣服、アクセサリー、自動車その他のアイテムや建築物については、現行意匠法において保護を及ぼすことができるケースが限られています。また、衣服、アクセサリー、自動車など、現実空間においては実用的な機能を果たす物品を表わす3Dオブジェクトのデザインは、裁判例上、著作権法によって保護されにくい傾向にあります。

令和5年不正競争防止法改正により、商品形態模倣が現実空間・仮想空間をまたいで規制される可能性が拡がりましたが、この制度では、保護期間が3年と比較的短く、また、規制対象となるのも実質的に同一のデザインに限られています。令和6(2024)年4月1日の同改正法施行後、仮想空間をめぐるビジネスの実態において同改正法がいかに機能するかが今後検証されていくものと思われます。

このように、仮想空間において利用されるアイテム等のデザインは、現行知的財産法上、保護が限られるケースがあるのが現状です。

こうした状況を踏まえ、特許庁では、仮想空間における意匠の取扱いにつき、令和6年の政策推進懇談会において、主に以下の方向性が議論されました(「特許庁政策推進懇談会中間整理」令和6年6月27日)。

①現行の類型(品・物建築物・画像の一部・内装)以外に登録可能類型を拡大する方向性

②物品及び建築物の意匠権について実施の範囲を仮想空間上に延長させる方向性

本日(2月10日)に開催された第17回意匠制度小委員会では、上記の方向性とは別に、3つ目の具体的な方向性として、以下の方向性が事務局から提案されました(産業構造審議会知的財産分科会 第17回意匠制度小委員会配布資料「意匠制度に関する検討課題について」27頁以下参照)。

③現行の登録可能類型である画像の意匠において、操作画像及び表示画像に加え、物品等の形状等を表した画像を保護対象とする方向性

令和6年特許庁政策推進懇談会の中間整理(前掲)では、どちらかといえば、前記②の方向性に対する支持が多かったように見受けられます。

もっとも、この方向性②は、現実空間においてビジネスを行う事業者が現実の商品等について意匠登録を得れば、仮想空間においてその商品等の形状等を表わす3Dオブジェクトにも権利を及ぼすことができる点で利点がある一方で、仮想空間でビジネスをする事業者にとっては、自ら提供する仮想商品それ自体のデザインを保護する選択肢は与えられないまま、現実空間の商品等に係る登録意匠の権利を侵害しないよう調査等をしなければならなくなるという負担が追加されることになるため、現実空間と仮想空間の間で保護のバランスに偏りがあり、不公平ではないかなどとの指摘がありました。

新たに提案された方向性③は、仮想空間におけるデザインに関し、現実空間における商品等について意匠登録を得るのではなく、仮想空間における「物品等の形状等を表わした画像」として意匠登録を得ることができます。また、現行意匠法上も登録可能な類型である画像の意匠の一類型とすることで、制度的な一貫性も確保することが狙いとなっているようです。

他方、方向性②と比べると、現実空間においてビジネスを行う事業者にとっては、現実空間の商品等について意匠登録をもっているとしても、仮想空間におけるデザイン保護を受けるためには仮想空間を対象にした意匠を別途出願・登録しなければならなくなるため、コストが増えてしまうなどの課題も生じます。どのような方向性がベストなのか、現実空間・仮想空間双方の事業者の実態・ニーズを適切に法制度に反映する必要があります。

今後、意匠制度小委員会では、この方向性③につき、現実空間・仮想空間でビジネスを行う事業者等からヒアリング調査等を行った上で、著作権法との関係も踏まえ、議論を続けていくとのことです。

メタバースのみならず、ゲーム業界など関連する事業者等としては、方向性③のメリット・デメリットを含めて、仮想空間におけるデザイン保護のあるべき姿について、それぞれの立場から検討し、こうしたルールメイキングの場に意見を伝えていくことが重要になります。

※この記事は、Yahoo!ニュース エキスパートに2025年2月10日付けで掲載した記事を一部更新し、転載したものです。


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この記事の著者について
日本国弁護士・ニューヨーク州弁護士
日本バーチャルリアリティ学会認定上級VR技術者

関 真也 Masaya Seki

エンタテインメント分野、ファッション分野、先端テクノロジー分野の知財法務に力を入れている弁護士です。漫画・アニメ・映画・ゲーム・音楽・キャラクターなどのコンテンツビジネス、タレント・YouTuber・インフルエンサーなどの芸能関係やアパレル企業・デザイナー・流通・モデルなどのファッション関係に加え、最近はXR(VR/AR/MR)、メタバース、VTuber、人工知能(AI)、NFT、eSports、デジタルファッションなどに力を入れ、各種法律業務に対応しておりますので、お気軽にお問い合わせ下さい。経済産業省「Web3.0 時代におけるクリエイターエコノミーの創出に係る研究会」委員、経済産業省・ファッション未来研究会「ファッションローWG」委員など官公庁の役職を務めルールメイキングに関わるほか、XRコンソーシアム監事、日本商標協会理事、日本知財学会コンテンツ・マネジメント分科会幹事、ファッションビジネス学会ファッションロー研究部会⻑などを務めており、これらの活動を通じ、これら業界の法制度や倫理的課題の解決に向けた研究・教育・政策提言も行っており、これら専門性の高い分野における法整備や業界動向などの最新情報に基づいた法的アドバイスを提供できることが強みです。

主な著書 「ビジネスのためのメタバース入門〜メタバース・リアル・オンラインの選択と法実務」(共編著、商事法務、2023年)、「XR・メタバースの知財法務」(中央経済社、2022年)、「ファッションロー」(勁草書房、2017年)など

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