研究・情報発信

はじめに

eスポーツチームに所属するプレイヤーは、報道、SNS、広告、グッズ等のさまざまな媒体にその氏名や肖像を使用される場合があります。このような場合に問題になるのが、肖像権やパブリシティ権の存在です。

今回は、eスポーツプレイヤーの肖像権やパブリシティ権について解説します。

【一覧:関真也法律事務所のeスポーツ法務解説】
#1:eスポーツ大会と賭博について
#2:eスポーツ大会の賞金等は景品表示法上の「景品類」に該当するか
#3:eスポーツ大会は風営法の規制を受けるか
#4:プロeスポーツ選手の労働者性と法的問題点~未成年者がプロ選手になるケースを例に~
#5:eスポーツ選手の移籍制限と独占禁止法の考え方
#6:チート行為と刑法犯罪について
#7:海外eスポーツプレイヤーの在留資格に関する法的問題点
#8:eスポーツ大会の広告物にゲームキャラクターを掲載することができるか?
#9:eスポーツにおけるゲームプレイは著作権法上の「実演」にあたるか?


肖像権・パブリシティ権とは

人格権

「人格権」とは、明文上の定義はありませんが、「人間の尊厳に由来し、①人格の自由な展開の保障(個人の自律・自己決定の保障、行動の自由、思想・信条の自由の保障など)や、②個人の私的生活領域の平穏の保護(氏名・肖像などの保護)を目的とする権利」であると解され、憲法第13条にその基礎を有するとされています[1]

ここにみられるように、氏名や肖像は、一種の人格権として法律上の保護を受ける場合があります[2]

肖像権

裁判例によれば、「人は、みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有」するとともに[3]、「自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有する」[4]とされています。

パブリシティ権

また、裁判所は、氏名・肖像等の商業的な利用の側面に関して以下のとおり述べ、いわゆる「パブリシティ権」という概念を認めています[5]

人の氏名,肖像等(以下,併せて「肖像等」という。)は,個人の人格の象徴であるから,当該個人は,人格権に由来するものとして,これをみだりに利用されない権利を有すると解される(略)。そして,肖像等は,商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり,このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は,肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから,上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。他方,肖像等に顧客吸引力を有する者は,社会の耳目を集めるなどして,その肖像等を時事報道,論説,創作物等に使用されることもあるのであって,その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるというべきである。そうすると,肖像等を無断で使用する行為は,①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,③肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となると解するのが相当である。


eスポーツプレイヤーの保護と
チーム・主催者等の注意点

eスポーツプレイヤーは、第三者が無断で自身の氏名や肖像を撮影し利用した場合や写真撮影した場合には、肖像権又はパブリシティ権に基づき、使用差止請求や使用料・損害賠償の請求をすることができる場合があります。

所属団体が肖像権等を管理することの可否
~プロ野球界の事例~

肖像権やパブリシティ権は、氏名・肖像等のように本人の人格的な象徴に関わるものであることから、プレイヤー本人から離れて譲渡することはできないという見解があります[6]

しかし、プロ野球界においては、プロ野球選手の肖像権やパブリシティ権をプロ野球球団が管理・利用することが、プロ野球選手とプロ野球球団との間の契約書に組み込まれていました。

当該条項の有効性が争われた最判平成22615日(以下、平成22年最判)は、長期にわたり球団による肖像権の管理が許されてきたこと、球団が選手に肖像権の使用料を分配し、選手から明確な異議がなかったこと等を理由として、肖像権やパブリシティ権の譲渡可能性については認めない一方で、当該権利の独占的使用許諾があったと判断しました[7]

eスポーツチーム・運営団体の注意点

eスポーツチームやその運営団体がプレイヤーの肖像権やパブリシティ権を管理・利用する場合には、平成22年最判を考慮し、プレイヤーとの契約において、肖像権やパブリシティ権の管理・利用に関する条件を定めるほか、その使用料の分配や、これらの権利を侵害する第三者が現れた場合の対応などについても検討する必要があると考えられます。

大会主催者の注意点

eスポーツ対価の主催者としては、プレイヤーの氏名・肖像等をウェブサイト、パンフレットその他の各種宣伝販促素材等に利用することがあるでしょうから、プレイヤー又はその所属チーム等との間で、氏名・肖像等の利用の許諾を受ける契約の締結を検討するとよいでしょう。

また、プレイヤーの氏名・肖像等に係る利益を保護するため、観衆・視聴者等による肖像等の撮影やSNSへの投稿その他の利用に関するルールを定め、周知することが重要です。


おわりに

今回は、eスポーツプレイヤーの肖像権とパブリシティ権ついて解説しました。

関真也法律事務所では、eスポーツプレイヤーの氏名・肖像等の保護に関する法的問題について相談をお受けするほか、チーム・運営企業、スポンサー、eスポーツ大会主催者、ゲーム会社、広告代理店、オンラインプラットフォーム等から、賭博罪、景品表示法、風営法、独禁法その他の各種法令への対応、契約書対応、大会運営規約対応、コンプライアンス対応、知的財産その他の権利処理など多岐にわたる法律相談や社内セミナー講師など幅広い業務をお受けしています。

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関真也法律事務所
弁護士 関  真也
弁護士 砂川 祐基


[1] 潮見佳男『ライブラリ法学基本講義=6-Ⅱ 基本講義 債権各論Ⅱ 不法行為法 第2版』185頁(新世社, 2014)。

[2] 我妻栄=有泉亨=清水誠=田山輝明『第7版 我妻・有泉コンメンタール民法−総則・物権・債権−』1516頁(日本評論社、 2021)参照。

[3] 最判昭和441224日刑集23121625頁〔京都府学連〕。

[4] 最判平成171110日民集5992428頁〔若山毒入りカレー〕。

[5] 最判平成2422日民集66289頁〔ピンク・レディー〕。

[6] 菊地浩明「パブリシティ権についての裁判例の分析(上)」判タ134625頁、32-33頁参照。

[7] 玉井伸弥「日本プロ野球界におけるパブリシティ権問題の概観 一般社団法人日本スポーツ法支援・研究センターからの便り」(新日本法規ウェブサイト、2023)(2025年10月18日最終閲覧)、一般社団法人日本プロ野球選手会「肖像権問題」(20251018日最終閲覧)等参照。

この記事の著者について
日本国弁護士・ニューヨーク州弁護士
日本バーチャルリアリティ学会認定上級VR技術者

関 真也 Masaya Seki

エンタテインメント分野、ファッション分野、先端テクノロジー分野の知財法務に力を入れている弁護士です。漫画・アニメ・映画・ゲーム・音楽・キャラクターなどのコンテンツビジネス、タレント・YouTuber・インフルエンサーなどの芸能関係やアパレル企業・デザイナー・流通・モデルなどのファッション関係に加え、最近はXR(VR/AR/MR)、メタバース、VTuber、人工知能(AI)、NFT、eSports、デジタルファッションなどに力を入れ、各種法律業務に対応しておりますので、お気軽にお問い合わせ下さい。経済産業省「Web3.0 時代におけるクリエイターエコノミーの創出に係る研究会」委員、経済産業省・ファッション未来研究会「ファッションローWG」委員など官公庁の役職を務めルールメイキングに関わるほか、XRコンソーシアム監事、日本商標協会理事、日本知財学会コンテンツ・マネジメント分科会幹事、ファッションビジネス学会ファッションロー研究部会⻑などを務めており、これらの活動を通じ、これら業界の法制度や倫理的課題の解決に向けた研究・教育・政策提言も行っており、これら専門性の高い分野における法整備や業界動向などの最新情報に基づいた法的アドバイスを提供できることが強みです。

主な著書 「ビジネスのためのメタバース入門〜メタバース・リアル・オンラインの選択と法実務」(共編著、商事法務、2023年)、「XR・メタバースの知財法務」(中央経済社、2022年)、「ファッションロー」(勁草書房、2017年)など

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