研究・情報発信

はじめに

この連載では、誹謗中傷、氏名・肖像等の無断使用、プライバシー侵害、営業妨害その他SNS・インターネット上の権利侵害に関してとることができる削除請求、発信者情報開示その他の措置について、関真也法律事務所に所属する弁護士が解説します。

今回は、侵害投稿の削除請求の内容、要件及び具体的な方法について解説します。

 キーワード:インターネット / 誹謗中傷 / 人格権侵害 / 名誉毀損 / 侮辱 / 氏名権 / 肖像権 / パブリシティ権 / プライバシー / 削除請求 / 発信者情報開示


削除請求とは

インターネット上の権利侵害対策における「削除請求」とは、侵害情報のデータをサーバから送信することを停止するよう求めることを指します。

誹謗中傷により名誉・プライバシーその他の人格権が侵害された場合には、人格権に基づく妨害排除請求権又は妨害予防請求権として、侵害行為の差止め、すなわち削除請求を求めることができます。


削除請求できるのはどのような場合か

侵害された権利の特定

人格権に基づく差止請求(削除請求)が認められるためには、「人格権が違法に侵害されていること」が必要です。他方、故意・過失等の主観的な要件は不要とされています。
  ※損害賠償請求をするときには、侵害者に故意・過失があることが必要となります。

「人格権」には明確な定義はありませんが、一般には、氏名、肖像、名誉、名誉感情、信用、プライバシーなどが無断で使用された場合に、削除請求が認められる可能性があります。

もっとも、どのような場合に削除請求が認められるかは人格権の種類等によって異なります。そのため、削除請求をするにあたっては、どの人格権が侵害されたのかを具体的に特定する必要があります。

違法性

また、人格権が「違法に」侵害されていることが必要とされているのは、削除請求が表現の自由に対する制約となり得るものであることから、対立する表現を行う利益とのバランスがとれているかどうかをチェックするためであると考えられています。

たとえば、名誉権侵害に基づく削除請求をする場合について、最高裁判所は、「その表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白」であることを要求し[1]、公益目的で真実を公表するなどの表現行為が抑制されすぎないよう配慮しています。

まとめ

このように、削除請求をする場合には、誰の、どのような「人格権」を、どのような方法で侵害されているか、被害者が請求者と特定できるか、投稿等の表現に違法性がないと評価されるような事情はないかなどを検討することが重要です。


削除請求の方法

削除請求の方法は、裁判外の手続による場合と、裁判手続による場合があります。

①裁判外の手続

1)フォーマット等を通じた削除申請

ウェブサイトによっては、ウェブサイト上から削除を求めることができるフォーマットを設けている場合や、メールでの削除申請を受け付けている場合があります。

本手続は、費用が掛からず簡潔かつ迅速な方法ですが、当該ウェブサイトやSNSの管理者が法律上削除義務を負うかどうかはケースバイケースであるため、削除が実行されるとは限りません。

参考記事:関真也法律事務所のeスポーツ法務解説#11:eスポーツプレイヤーに対する誹謗中傷等への対応策(概説) – 関真也法律事務所

また、発信者情報開示を求める裁判を起こす可能性がある場合、削除申請によって通信ログが投稿と合わせて削除され、発信者の特定に支障が生じる可能性もあるため、削除申請をするかどうかを含めて事前の慎重な検討が必要です(なお、通信履歴の保存に関する近時の動向について下記《ひとくちメモ》参照)。

《ひとくちメモ:通信履歴の保存に関する近時の動向》

誹謗中傷をはじめとするインターネット上の違法・有害情報の流通が社会問題となるなか、その流通において重要な役割を担うコンテンツプロバイダやアクセスプロバイダについても、これらの対策のために必要な範囲内で、通信履歴(アカウント情報、ログイン情報、投稿情報等)を保存することを求める声が高まりました。

これを受けて、総務省のICTサービスの利用環境の整備に関する研究会・通信ログ保存の在り方に関するワーキンググループにおいて検討が行われた結果[2]、令和7926日、「電気通信事業における個人情報等の保護に関するガイドライン」が改正されました[3]

同ガイドラインの解説では、発信者情報開示請求等に対して実効的な対応をするため、コンテンツプロバイダ及びアクセスプロバイダにおいて必要な範囲内で通信履歴を保存することが考えられ、「その保存期間は、少なくとも36か月程度とすることが社会的な期待に応える望ましい対応と考えられる」と明記されました[4]

削除請求等の対応を検討する際にも、各プロバイダが通信履歴の保存期間についてどのような対応をしているかを把握しながら、適切に判断する必要があります。

2)法定の削除申請窓口に対する削除申出

特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(以下「法」)は、大規模なプラットフォーム事業者は「大規模特定電気通信役務提供者」[5](法214号、211項)として、削除請求に対する窓口の設置、削除申出の対応体制の整備、一定期間内での削除申出に対する判断・通知等が義務付けられました(法22条〜27条参照)。

この手続は、「大規模特定電気通信役務提供者」を対象とするものであり、すべてのウェブサイトの管理者に適用されるものでありません。また、上記1)同様、削除を申し出た投稿とともにその通信ログが削除され、発信者の特定が困難となる可能性があるため、注意が必要です。

3)ガイドラインに則った送信防止措置の依頼

「送信防止措置」とは、「侵害情報送信防止措置その他の特定電気通信による情報の送信を防止する措置」をいいます(法29号)。

当該措置を請求する場合には、情報流通プラットフォーム対処法ガイドライン等検討協議会が策定するガイドライン[6]に従い請求するのが一般的です。任意の削除要請等には応じない場合でも、同ガイドラインに基づいた送信防止措置依頼は受け付けるサイト等もあるため、効果的な対策となる場合があります。

②裁判手続

1)仮処分の申立て

仮処分の申立ては、民事保全法232項に基づく手続であり、削除請求の要件に加えて「債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とする」こと(保全の必要性)が要件となります。もっとも、侵害情報が流通しているのであればそれによって現に権利侵害が生じているため、保全の必要性は認められやすいとの指摘があります。

本手続は、裁判手続であるため、申立費用や担保金などのコストがかかるほか、資料の収集などが必要になりますが、通常訴訟による場合と比べ短期間での削除を実現することが可能となります。

2)検索サイトに対する検索結果の削除請求

あるウェブページに侵害情報が掲載されていたとしても、検索サイトの検索結果としてそのウェブページが表示されないのであれば、事実上その侵害情報に触れる者は非常に少なくなるため、検索サイトに対して検索結果の削除を求めるという対策をとることも一つの選択肢です。

これに関し、最高裁は、検索サイトに対する検索結果の削除請求を認めるか否かを判断する基準として、次のように判示しました[7]

当該事実の性質及び内容、当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、その者の社会的地位や影響力、上記記事等の目的や意義、上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化、上記記事等において当該事実を記載する必要など、当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。


おわりに

今回は、インターネット上の名誉毀損、氏名・肖像等の無断使用、プライバシー侵害その他の人格権侵害の対策として有用な、削除請求という手続について解説しました。

関真也法律事務所では、SNS・インターネット上での誹謗中傷、著作権、商標権等の各種侵害に関するご相談のほか、削除請求や発信者情報開示をすることをお考えの方、プロバイダとして削除請求や発信者情報開示請求等を受ける場合の対応方法、警察対応その他の各種手続に関するご相談をお受けいたします。

インターネット上の誹謗中傷・著作権侵害等に対する発信者情報開示や損害賠償請求等についてご相談のある方は、当ウェブサイトのフォームよりお問い合わせ下さい

関真也法律事務所
弁護士 関  真也
弁護士 砂川 祐基


[1] 最大判昭和61611日民集40872号頁(北方ジャーナル事件)。

[2] 総務省ウェブサイト「通信ログ保存の在り方に関するワーキンググループ(第7回)」20251024日最終閲覧)。

[3] 電気通信事業における個人情報等の保護に関するガイドライン(令和7926日改正版)。

[4] 同ガイドライン解説(令和7101日版)203204頁。

[5] 総務省「インターネット上の違法・有害情報に対する対応(情報流通プラットフォーム対処法)」中、「大規模特定電気通信役務提供者の指定」に掲載。

[6] 情報流通プラットフォーム対処法ガイドライン等検討協議会「送信防止措置手続」(20251024日最終閲覧)。なお、送信防止措置の方法は、「名誉毀損・プライバシー関係」、「著作権関係」、「商標権関係」で異なります。

[7] 最三決平成29131日民集71163頁参照。

この記事の著者について
日本国弁護士・ニューヨーク州弁護士
日本バーチャルリアリティ学会認定上級VR技術者

関 真也 Masaya Seki

エンタテインメント分野、ファッション分野、先端テクノロジー分野の知財法務に力を入れている弁護士です。漫画・アニメ・映画・ゲーム・音楽・キャラクターなどのコンテンツビジネス、タレント・YouTuber・インフルエンサーなどの芸能関係やアパレル企業・デザイナー・流通・モデルなどのファッション関係に加え、最近はXR(VR/AR/MR)、メタバース、VTuber、人工知能(AI)、NFT、eSports、デジタルファッションなどに力を入れ、各種法律業務に対応しておりますので、お気軽にお問い合わせ下さい。経済産業省「Web3.0 時代におけるクリエイターエコノミーの創出に係る研究会」委員、経済産業省・ファッション未来研究会「ファッションローWG」委員など官公庁の役職を務めルールメイキングに関わるほか、XRコンソーシアム監事、日本商標協会理事、日本知財学会コンテンツ・マネジメント分科会幹事、ファッションビジネス学会ファッションロー研究部会⻑などを務めており、これらの活動を通じ、これら業界の法制度や倫理的課題の解決に向けた研究・教育・政策提言も行っており、これら専門性の高い分野における法整備や業界動向などの最新情報に基づいた法的アドバイスを提供できることが強みです。

主な著書 「ビジネスのためのメタバース入門〜メタバース・リアル・オンラインの選択と法実務」(共編著、商事法務、2023年)、「XR・メタバースの知財法務」(中央経済社、2022年)、「ファッションロー」(勁草書房、2017年)など

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