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はじめに

eスポーツ大会は、チート行為を禁止行為に掲げていることが大半です。仮に、eスポーツ大会でプレイヤーがチート行為をした場合、当該プレイヤーは失格になったり、今後開催予定のeスポーツ大会への出場が制限されたりする可能性があります。

また、eスポーツ大会のルールとの関係だけではなく、チート行為は刑法犯罪に該当する可能性があります。

今回は、チート行為とは何か、チート行為が刑法犯罪に該当するか、eスポーツ大会の開催で留意するべきことについて、プレイヤーがチート行為をする場合を想定して解説します。

【一覧:関真也法律事務所のeスポーツ法務解説】
#1:eスポーツ大会と賭博について
#2:eスポーツ大会の賞金等は景品表示法上の「景品類」に該当するか
#3:eスポーツ大会は風営法の規制を受けるか
#4:プロeスポーツ選手の労働者性と法的問題点~未成年者がプロ選手になるケースを例に~
#5:eスポーツ選手の移籍制限と独占禁止法の考え方


チート行為とは

チート行為とは、「ゲームのデータやプログラムを改ざんして、正規の利用では本来できないこと(ゲーム内通貨やレアアイテムを不正に増やしたり、キャラクターのレベルを急激に上げるなど)を不正にできるようにする行為」をいいます[1]

チート行為と類似する行為として、「裏技」があります。「裏技」とは、ゲームの仕様やバグ等を利用して、開発者等が想定していない動作を起こして利益を得ることをいいます。

両者の関係について、「裏技」はプログラム等の改変を伴わないのに対し、「チート行為」はこれを伴うという区別ができます。


関連する犯罪類型と実例

私電磁的記録不正作出罪(刑法第161条の2第1項)等

刑法第161条の21項は、「人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は、五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。」と規定しています。

オンラインゲームでのチート行為は、「事実証明に関する電磁的記録」を不正に作出するものであり、私電磁的記録不正作出罪にあたる可能性があります。

この点、裁判例では、オンラインゲームの運営会社の事務処理を誤らせる目的で、オンラインゲーム上でゲームキャラクターが保有するアイテムを増加させる旨の虚偽の情報を送信し、オンラインゲームのシステムを構築するサーバに同情報を記録させた行為につき、私電磁的記録不正作出罪等の成立を認めた事例があります[2]

また、2019710日、オンラインFPSAlliance of Valiant Arms」(AVA)において、常習的に、「対戦相手の位置や情報が分かる」・「銃器の命中精度や威力が増す」という運営会社の意思に反する機能を有する形で無断に作られたチートツールを利用し、ゲームの進行を自分に優位となるようにしていた男性が、私電磁的記録不正作出・同供用罪等で検挙されたとの公表があった事例があります[3]

電子計算機損壊等業務妨害罪(刑法第234条の2第1項)

また、刑法第234条の21項は、「人の業務に使用する電子計算機若しくはその用に供する電磁的記録を損壊し、若しくは人の業務に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え、又はその他の方法により、電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作をさせて、人の業務を妨害した者は、五年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。」と規定しています。

チート行為関連の実例として、株式会社ネクソンを運営会社とする「サドンアタック」において、共謀してチートツールを作動させ、運営会社の意図しない動作を繰り返し行い、運営業務に支障を生じさせ業務を妨害したとして、当時1718歳の学生3名が、電子計算機損壊等業務妨害容疑で書類送検されたことがあります[4]


eスポーツ大会で留意すべきこと

eスポーツ大会は、ゲームの運営会社の許諾を受けて開催されることが多く、大会内でチート行為が判明した場合、今後同一タイトルでの大会の開催ができなくなるおそれがあります。

そのような事態にならないよう、eスポーツ大会の開催者は、チート行為を明確に禁止するような大会規約を作成するほか、チート行為が行われないよう、たとえば以下のような措置を実施することを検討するのが望ましいでしょう。

  • 開催者がPC、スマートフォン、ゲーム機等の競技用機材を用意してプレイヤーに使用させることとし、プレイヤーが用意した機材等の使用を禁じること
  • 各プレイヤーやチームに開催者のスタッフを配置し、チートツールの使用がないか監視すること
  • チート行為が疑われるプレイヤーがいた場合に備えて通報窓口を設置すること

関真也法律事務所では、チート行為に関する問題についてご相談をお受けしているほか、eスポーツのチーム・運営企業、スポンサー、eスポーツ大会主催者、ゲーム会社、広告代理店、オンラインプラットフォーム等から、賭博罪、景品表示法、風営法、独禁法その他の各種法令への対応、契約書対応、大会運営規約対応、コンプライアンス対応、知的財産その他の権利処理など多岐にわたる法律相談や社内セミナー講師など幅広い業務をお受けしています。

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関真也法律事務所
弁護士 関  真也
弁護士 砂川 祐基


[1] 警視庁「チート行為はやめましょう!」(202474日)(2025925日最終閲覧)。

[2] 奈良地判平成29117日(平成28年(わ)第394号)。

[3] 株式会社GOPのウェブサイト「Alliance of Valiant Armsにおける常習チート利用者検挙のお知らせ」(2019710日)(2025925日最終閲覧)。

[4] 一般財団法人デジタルコンテンツ協会「平成27年度産業経済研究委託事業 コンテンツ保護の技術的手段に係る法制度及び技術動向等に関する調査研究」(平成283月)85頁参照。

この記事の著者について
日本国弁護士・ニューヨーク州弁護士
日本バーチャルリアリティ学会認定上級VR技術者

関 真也 Masaya Seki

エンタテインメント分野、ファッション分野、先端テクノロジー分野の知財法務に力を入れている弁護士です。漫画・アニメ・映画・ゲーム・音楽・キャラクターなどのコンテンツビジネス、タレント・YouTuber・インフルエンサーなどの芸能関係やアパレル企業・デザイナー・流通・モデルなどのファッション関係に加え、最近はXR(VR/AR/MR)、メタバース、VTuber、人工知能(AI)、NFT、eSports、デジタルファッションなどに力を入れ、各種法律業務に対応しておりますので、お気軽にお問い合わせ下さい。経済産業省「Web3.0 時代におけるクリエイターエコノミーの創出に係る研究会」委員、経済産業省・ファッション未来研究会「ファッションローWG」委員など官公庁の役職を務めルールメイキングに関わるほか、XRコンソーシアム監事、日本商標協会理事、日本知財学会コンテンツ・マネジメント分科会幹事、ファッションビジネス学会ファッションロー研究部会⻑などを務めており、これらの活動を通じ、これら業界の法制度や倫理的課題の解決に向けた研究・教育・政策提言も行っており、これら専門性の高い分野における法整備や業界動向などの最新情報に基づいた法的アドバイスを提供できることが強みです。

主な著書 「ビジネスのためのメタバース入門〜メタバース・リアル・オンラインの選択と法実務」(共編著、商事法務、2023年)、「XR・メタバースの知財法務」(中央経済社、2022年)、「ファッションロー」(勁草書房、2017年)など

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