はじめに
eスポーツプレイヤーは、練習によって獲得した技能を発揮してゲームキャラクターを操作し、それが観衆等から魅力的なものとして評価されることがあります。
このようなゲームの操作やそれによるゲームキャラクターの振舞いは、著作権法上、「実演」として保護の対象となるでしょうか?
【一覧:関真也法律事務所のeスポーツ法務解説】
#1:eスポーツ大会と賭博について
#2:eスポーツ大会の賞金等は景品表示法上の「景品類」に該当するか
#3:eスポーツ大会は風営法の規制を受けるか
#4:プロeスポーツ選手の労働者性と法的問題点~未成年者がプロ選手になるケースを例に~
#5:eスポーツ選手の移籍制限と独占禁止法の考え方
#6:チート行為と刑法犯罪について
#7:海外eスポーツプレイヤーの在留資格に関する法的問題点
#8:eスポーツ大会の広告物にゲームキャラクターを掲載することができるか?
実演家の権利とは
著作権法上、「実演家」には、著作権とは別に、以下のようにさまざまな権利が与えられています。
- 実演家の権利
- 実演家人格権
- 氏名表示権
- 同一性保持権
- 著作隣接権(許諾権)
- 録音権・録画権
- 放送権・有線放送権
- 送信可能化権
- 譲渡権
- 貸与権
- 報酬請求権等
- リピート放送等に対する報酬請求権
- 放送同時配信等に対する報酬請求権
- 特定実演家と連絡することができない場合の放送同時配信等に関する補償金制度
- 放送の同時有線再放送に対する報酬請求権
- 商業用レコードを用いた放送同時配信等に対する補償金制度
- 実演が録音された商業用レコードの放送・有線放送による二次使用料請求権
- 期間経過商業用レコードの貸レコード業者に対する報酬請求権
- 地域限定特定入力型自動公衆送信に対する補償金制度
- 私的録音録画補償金制度
- 実演家人格権
著作権法上、「実演」とは、「著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)」をいいます(2条1項3号)。
また、「実演家」とは、「俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行う者及び実演を指揮し、又は演出する者」をいいます(同項4号)。
「実演」の典型例としては、たとえば、俳優・声優の演技、ダンサーの踊り、ミュージシャンの歌唱・演奏、落語家の口演等が挙げられます。
他方、ファッションショーにおいてファッショモデルが舞台上の一定の位置で決めるポーズや動作につき、特段目新しいものではなく態様もありふれたものにすぎないと述べ、「実演」該当性を否定した裁判例があります[1]。
また、収録のためにテレビ局の取材を応じることについて「実演」該当性を否定した裁判例もあります[2]。
eスポーツにおける
ゲームプレイは「実演」か?
ゲームプレイの「実演」該当性について判断した裁判例は見当たらず、学説上もさまざまな見解が主張されているのが現状です。
競技性との関係
選手同士で技能等を競い合うというeスポーツの競技性の側面を重視し、それが「人々の娯楽的要求にこたえて演ずる」[3]という芸能的な性質を備えるかという観点からみた場合には、ゲームプレイは「実演」であるとは言いにくいという考え方もあります。
もっとも、現代では、競技として行われるスポーツも大衆向けの娯楽という性格が強まっており、選手たちもそれを前提として技能等を磨き出状しているのだと考えれば、なお「実演」にあたるという考える余地があるかもしれません[4]。
また、競技大会におけるゲームプレイではなく、たとえばゲーム実況配信など、プレイヤーが練習等によって培った技能等を活かして視聴者を楽しませることを目的とするゲームプレイは、芸能的な性質を備えているものと認められやすいという意味で、「実演」と判断されやすいという見方もあるでしょう。
ゲームプログラムによる制約
また、ゲームの種類やタイトル等によりますが、ゲームプレイにより実現できるキャラクターの動きその他の振舞いの自由度は、ゲームのプログラムによる制約を受けます。つまり、プレイヤーは、プログラム上可能とされていない動きをキャラクターにさせることは事実上できません。したがって、プレイヤーがゲームプレイによって個性を発揮することができる範囲には自ずと限界があるのです。もともと狭い範囲の振舞いしかできないのに、それに対して実演家の権利という排他的な権利を与えてしまうと、そのゲームプレイの利用を通じた商品化やプロモーション等がしにくくなり、ゲームやeスポーツ大会という文化・産業の発展にも過度の影響を与えかねないという見方もあるでしょう。
これに対し、VRゲームのように、自由度が高く身体全体の動きをもって直感的に操作するゲームにおいては、ゲームプログラムによる制約を強く受けることなく十分に個性を発揮したゲームプレイが可能となることから、「実演」該当性が認められやすいと考えることもできそうです[5]。
権利処理実務への影響
eスポーツプレイヤーのゲームプレイが「実演」に該当する場合、著作権法によって認められる実演家の権利について契約による権利処理が必要となります。
この場合、ゲームプレイの模様を会場でライブ上映するだけか、それとも、ゲームプレイを録音・録画した映像を配信、放送、商品化その他の方法で利用するかなどによって、契約書の書き方その他適切な権利処理の内容が変わってくる可能性があります。
おわりに
今回は、eスポーツにおけるゲームのプレイが「実演」に該当するかについて解説しました。
関真也法律事務所では、eスポーツのチーム・運営企業、スポンサー、eスポーツ大会主催者、ゲーム会社、広告代理店、オンラインプラットフォーム等から、賭博罪、景品表示法、風営法、独禁法その他の各種法令への対応、契約書対応、大会運営規約対応、コンプライアンス対応、知的財産その他の権利処理など多岐にわたる法律相談や社内セミナー講師など幅広い業務をお受けしています。
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[1] 知財高判平成26年8月28日判時2238号91頁〔ファッションショー〕。
[2] 大阪高判平成24年6月29日(平成23年(ネ)第3493号)。
[4] 「実演」そのものに関するものではないが、競技目的か鑑賞目的かという二項対立の構図に疑問を投げかけるものとして、町田樹「著作権法によるアーティスティック・スポーツの保護の可能性:振付を対象とした著作物性の確定をめぐる判断基準の検討」日本知財学会誌16巻1号73頁(2019年)参照。
[5] メタバースにおけるアバターの動きと「実演」該当性に関し、関真也「メタバースにおけるモーションデータの保護と実演家の権利~アバターを通じた「実演」の捉え方とプログラムの位置づけ~」国際著作権法研究2巻34頁(2024年)参照。